2006年03月08日 Web制作会社としてのCSR(企業の社会的責任)を考えてみる【後編】

中野です。

一日空いてしまいましたが、「Web制作会社としてのCSR(企業の社会的責任)を考えてみる【前編】」に続く後編をまとめます。


このセミナーの概要を、手元のメモからまとめてみます。

未成年に対する商業的・性的搾取を意味する「児童買春(かいしゅん)」。

その背景は単純ではなく、貧困、経済格差、政情不安、薬物乱用など、複合的な原因が絡まりあっている。
旅行・観光先で子ども買春を行う者=「買春ツーリスト」はずっと問題視されてきたが、これのステレオタイプ化も難しく、あらゆる地域・文化・社会的地位にある人々からなる。そして児童買春を撲滅する上で最も鍵となるのが「状況的虐待者」(正当化・合理化できる条件さえあれば児童と接触しようとする者)、つまりカジュアルな買春ツーリストだ。

世界観光機関(WTO)、ユニセフ、ECPATは、「子ども買春防止のための旅行・観光業界行動倫理規範 (Code of Conduct)」を推進・実現していくため「コードプロジェクト」への参加を、旅行・観光業者に呼びかけた。

コードプロジェクト 子ども買春防止のための旅行・観光業界行動倫理規範
http://www.unicef.or.jp/code-p/

日本版コードプロジェクトは2005年3月に発足した。このコードプロジェクトに日本の旅行業者が参加するうえで立役者となったのがJTB(株式会社ジェイティービー)。

JTBは、グループ会社150社でこれを推進することを決定し、「行動倫理規範」を改定し、新入社員教育や、海外代理店との契約にも禁止事項を盛り込むなどの活動を進めている。
JTBが業界団体であるJATA(日本旅行業協会)と歩調を合わせたことで、業界内の多数の企業から賛同を得るに至っている。

日本旅行業協会が、子ども買春の防止で国連行動規範プロジェクトに調印
http://www.hurights.or.jp/news/0503/b04.html

「なぜJTBは率先して先進的なCSR活動をしているのか?」という点は実は一番聴きたかったところです。広報の方の説明によれば、北米の大手旅行代理店カールソン・ワゴンリー・トラベル(Carlson Wagonlit Travel)とJTBとの合弁会社経由で強くプッシュがあった、というのが主なきっかけであるらしい。
パネルディスカッションでは、旅行業界がこういう行動規範を掲げることについて、違反があった場合の対処や、評価・検証といった実質的な定着に向けての取り組みはまだこれからの課題だ、という点も指摘されていました。

「児童労働の最悪の形態としての児童買春」という重い事実の前に圧倒されてしまった講演ですが、このコードプロジェクトの戦略的なキレは、参加企業が履行すべき6つの「行動倫理規範」によく表われていると感じます。

コードプロジェクト 行動倫理規範 6つの項目
http://www.unicef.or.jp/code-p/how.htm#2

1. 子どもの商業的性的策所に反対する企業としての倫理規定や方針を確立する

自社の倫理規定を決めていく過程で話し合いが持たれるわけだから、しっかりと社内を啓蒙することができる。

2. 出発地および目的地の両国内の従業員を教育・訓練する

教育を制度化することで、価値観の定着、再生産が可能になる。

3. 供給業者(旅行目的地の旅行業者等)と結ぶ契約のなかに、契約両者が協力して子どもの性的搾取を拒否することを記した条項を導入する

サードバーティも巻き込まなければ実施には限界がある。

4. カタログ、パンフレット、航空機内映像、航空券、ホームページなどを通じ、旅行者に関連情報を提供する

よい取り組みは、適切な手段でアピールすることが重要。

5. 旅行目的地の現地有力者に関連情報を提供する

インフルエンサーに働きかけなければ定着は望めない。労力対効果を考えても、レバレッジ効果がある方法を取るべきだろう。

6. 年次報告を行う

記録に残し、検証する。足跡をしっかり刻む。広報効果ももちろんある。

というわけで、業界横断的な取り込みを進める際には、こういうフレームワークの役割は大きいと思いました。


実際にこの行動倫理規範に従って定められた旅行業各社の規定は、JTBの場合Webサイト( JTB 会社案内 JTB行動規範 )にも掲出されています。他社の事例も「コードプロジェクト/参加企業一覧」からチェックしようとしたんですが、なかなか見つけづらい。この辺はまだまだという感じかな。

CSRというと、環境関連の活動はポピュラーになってきました。それに対して、旅行業界が「人権」や「社会正義」に真正面から取り組んでいく、というのはすばらしいことだと思います。

大手企業や成熟産業のケーススタディには触発されるものがありますが、CSRって、若い業界や小さな企業こそ取り組みやすい、かつやるべき活動では? とも思っています。
いずれにしろ、どうせやるなら業界横断で、という視点をもって、これからいろいろ動いてみたいと考えています。

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